チャップリン狂時代 恋はサイレント

2004年12月23日(祝)14:30〜 16:30〜 19:30〜 
     24日(金)15:30〜 20:00〜       
  道頓堀極楽商店街6F ゑびす座




 道頓堀のゑびす座で「チャップリン狂時代」の
公演がありました。
若いファンからオールドファン、そして芸能界にも
沢山のファンを持つ、喜劇王チャップリン。
彼へのオマージュとも言える、ゑびす座の
「チャップリン狂時代」のミュージカルは
まさに涙と笑いの面白く、せつない、
“チャップリンの世界”を彷彿とさせるものでした。
チャップリンを演じている洋あおいさんは、
スリムな体に軽妙な動きでお腹をすかした
放浪のチャップリンに驚くほどぴったりでした。

オープニングは客席からサイレント映画時代の
「中売り」の姿で洋さん登場。
観客に‘おせんべい’や‘仁丹’を販売して
毎回のアドリブでしばし、客席を和ませ、
当時の映画館、弁士、そしてバック音楽であった
‘ジンタ’の話へ。
西村さんのバイオリンが訥々と「ライムライト」の
テーマ音楽を奏でる頃には現実のゑびす座から
「チャップリンの世界」に実に巧みにいざなわれて
行きました。

軽快な音楽にのって、洋さんは古びた燕尾服、
山高帽子にちょび髭、ステッキを手に、
振り返ると弁士からチャップリンに変身。
いよいよチャップリン映画の名場面が始まります。

「お腹がすくことは切ないこと」と食べさせて
もらえないテーブルの上の愉快なパンのダンス。
「モダンタイムス」の有名なベルトコンベアーの
場面はフィルムを早く回した様な、ぎこちない
動きの面白さと相手役の西村さんとの絶妙な
コンビにゲーム世代の小学生が、声をたてて
笑っていたのが印象的でした。
映画「モダンタイムス」の中にチャップリンが
歌詞を忘れてデタラメ語で歌う面白い場面が
ありますが、この作品でも抱腹絶倒の場面でも
ありました。
♪「道頓堀のネエちゃん!こっち向いておくん
なはれ・・・」と戎橋の風俗を大阪弁で歌いこみ、
爆笑のオチが付いていました。
そのしぐさ、表情、絶妙なタイミングに何度観ても、
大笑いです。
燕尾服の上からベルトと帽子を着け「モダンタイムス」
のチャップリンから、「独裁者」のヒンケルに早変わり、
ヒンケルは大衆の声援の中、盛んにドイツ語風
デタラメ語でまくし立てます。
そして独裁者ヒンケルにそっくりの床屋の述懐は
ハサミを動かしながら「ここで家族と普通に暮ら
したいだけなのに」と庶民のささやかな思いを
語ります。
地球に見立てた風船を打ち上げる有名なバルーン
ダンスと、チャップリンの現代でも通じる
メッセージに驚かされます。
洋さんは会場を見回して堂々の迫力のヒンケルと
気の弱い床屋を演じわけ、時折のしぐさ、アドリブで
笑わせます。

取り出した1本のウイスキーの小瓶とともに
「ライムライト」が始まります。
弁士はテーマ音楽を奏でるバイオリンとともに、
客から忘れられた道化役者、カルベロと若く
美しい才能あるバレリーナ、テリーとの切ない
恋の物語を語り始めます。
心の病で踊れなくなったテリーの自殺を助けた
カルベロは、彼女を慰め、励まし、才能を
開花させて行きますが、しかし、カルベロの
道化は相変わらず受けない。
二人の心が通じあったのに、それ以上寄り
添えない寂しさを、テリーが呟くように歌い出し、
やがてデュエットになるテーマ曲がとても
美しく哀しい。
又、カルベロが道化役者の自分を語る場面が
心に痛い。道化の宿命のように客を沸かせ、
もっともっと、笑わせたいと息巻くのだが
空回り、いつの間にか自分の時代が
終わっている。
愛想笑いから苦い笑い、そして自嘲的な笑いと、
声と顔はかろうじて笑っているが心は泣いている、
切ないカルベロはまさに、洋さんの独壇場でした。
やがてテリーの将来を思い、彼女のもとを去って
行くが、大舞台を前に再び踊れなくなったテリー。
酒が過ぎ、心臓の病に命短いカルベロは、
もう1度彼女のもとに戻ります。
「あなたが居なくては踊れない」とすがる
テリーに舞台を指差し「観客が待っている。
行けー」と命を賭けたカルベロの叫びは涙なく
しては見られない。
「君は若い、才能がある、未来がある」と励ます
カルベロもテリーの真っ直ぐな「愛している」と
言葉についに答えることができず、はれの
大舞台で踊るテリーに、間もなく消え去る
命の中「愛しているよ」とささやくように
彼女への思いを込めたテーマ曲が歌われます。
拍手喝さいの様子が映画で写される中、
カルベロは・・・

初日公演の後、芝居の面白さ、チャップリンの
メッセージの今日性に触発され、改めて
チャップリンのビデオを見直しました。
前に感想で見ていなくても、楽しめると
書きましたが、見た後はいっそう、面白く、
興味深く見られ、なにより、洋さんの
チャップリンへの取り組みの情熱と凄さを
認識しました。
各場面はもちろん、戎橋の歌を歌い始める
間奏のちょっとした場面でも「あっ、
チャップリンだ!」という思いを強くしました。
西村さんの情感溢れるバイオリン、沙月さんの
とても美しいバレエもあり、とても充実した
見ごたえのある作品でした。
「道頓堀のチャップリン」に再び出会えることを
願っています。








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