浪花人情紙風船団
 ペーパーバルーン公演
  SHOOT.2
河内の國の溜め池の底

2008.5.29(木)〜6.1(日)
   ワッハホール







舞台は大阪、河内、そして現在。
古い溜め池を埋めて大型商業都市
“河内ヒルズ”をつくろうとする
人間たちと 
ずう〜っと昔からこの溜め池に
住んでいる妖怪たちの、生きる
場所をかけた大喧嘩。
そして気になる喧嘩の結末は・・・
なんと 
気持ちよく裏切られた。
紅萬子さん演じる 
“太古からの河内の民と溜め池
の守り神・日下姫(くさかひめ)
”の小気味よい“河内弁”が
“ カギ ” であった。



洋あおいさんの役は河内出身の
女性建築士 大河内薫 
“世界的なコンベンションで
入賞し男装の麗人を思わせる
華麗なスタイルでマスコミから
注目される時のひと・・・”
 というキャリアウーマン。
立ち振る舞いがなんともカッコ
よく、セリフも明瞭、爽やかで、
後半には緊張感とともにホロリ
とさせる感動の場面もあった。
薫は溜め池を埋めて新しい街を
つくるために故郷に帰ってきた
が、この古い溜め池にはなにやら
深い思いがあるようす。

 しかし、まもなく工事は始まる。
安全を祈願している薫とゼネコン
の社員、施工業者たち。
 人間たちの声は判らないが、
神主の祝詞だけは妖怪にも
通じるとか・・・
池の底で気いよう暮らしていた
日下姫や溜め池の妖怪たちは、
その祝詞を聞いて事態に驚き、
怒り、あれこれと知恵をしぼって
おかしな仕返しの相談をする。
そうこうしているうちに溜め池
の水が抜かれはじめ、いよいよ
日下姫の怒りは頂点に達し、
神通力で工事は止められ、
いきなり雨が降ってくる・・・
そして薫たちは池の底の日下姫
の下にさらわれる“神隠し”
である。
 いよいよ薫と日下姫は面と
向かって直接対決する。
 両方の言い分を言い争う中で、
薫が溜め池にこだわるわけが
明らかになっていく。



陽気でおかしな妖怪たちには
笑わせられた。
アングラ、宝塚、OSK、吉本、
松竹、新劇、小劇場出身と・・・
それだけでも個性的なのに衣装も、
歌に乗せて語る妖怪になった生い
立ちもそれぞれの人生を感じられ
面白い。
しかし、彼ら妖怪の前世は哀しい。
お調子者の河童の六郎 (青野敏行)
 は、身体をはって勇ましく自分の
村を洪水から守り、恩人と讃えら
れたが、水が流れこんだ隣村から
は仇として憎まれ、
川に沈められたとか・・・。
成仏できず妖怪になった事情がある。

父娘の再会、そして別れに涙した。
薫は溜め池の底で、
子守唄「綿つみの歌」を通して、
破産して入水自殺をした父と出会う。
 妖怪赤子爺(南条好輝)である。
娘であることがわかっていながら
赤子爺は父とは名乗れない。
 薫の問いに 
 「あんたのお父さんやったら、
こう言うと思います。」
と目を伏せて他人行儀に答える
様子が切ない。
 赤子爺は残してきた家族を思う
あまり、泣き続け成仏できず妖怪
になったので、今は入水自殺を
しようという人に赤子の泣き
真似をして思い止まらせる妖怪
だと、日下姫のとりなしもあり、
二人は理解し再会を喜びあうが、
所詮、妖怪と人間、住む世界が
違う 「一人にしないで」と
涙ながらに父を求める薫に
優しく別れを言い含める父親、
ピーンと張り詰めた洋さんを
どっしりと受け止める南条さん、
父親の思いあふれる場面に涙が
止まらない。

以外な結末に、
薫は溜め池の古くからの歴史や、
水底にしか生きられない者たち
を知り、溜め池を埋め立てる
ことを断念した。
地に伏して日下姫に謝罪した
薫に、日下姫は よぉーし!
と言わんばかりに妖怪たちに
向かい
「新しい生き方をみつけよ!」
と溜め池を明け渡し引越しを
宣言する。
驚く妖怪たち。



観ている私たちもびっくり!
でも納得でした。
その伏線は作者北林佐和子先生の
プログラム中の言葉にありました。
 「喧嘩もせずに真の和解があるか
 ・・・」
河内地方の口の悪さは、家康の
お墨付きを貰ったそうだ。
相手が誰であれ率直に心の底から
言い合う反骨精神、そして納得
したらわだかまりなく和解する。
日下姫の潔さは “河内弁”
そのものと言える。

薫の協力者、武田が溜め池の底に
さらわれる場面は妖怪たちの、
思いっきり賑やかで怪しいサンバ。



チンドン屋について行って神隠し
に会う昔話を連想させる。
 諜報部員のように神出鬼没の
ゴマザレンコ夫人(未央一)と
薫の歌とダンス対決、姫に仕える
フナ侍(安希つかさ)の仲間と
のダンス場面、それぞれ決まって、
さすが本物のダンサーはカッコ
いい。
 薫が歌う子守唄も心地よく、
テーマ曲にも、リピート山中さん
の自然や人間に対する温かい
眼差しを感じた。



開発と称して無造作に切り捨てて
いく土地や歴史、神や自然に
対する畏れを忘れた私たちへの
警告が日下姫の言葉や陽気な妖怪
を通して伝わってくる。
その神さまとの交流の場は祭り。
新しい街にできた小さいながら
日下姫を祭る神社の下、賑やかに
河内音頭が繰りひろげられる様子
にホッとさせられた。

次回、第8回浪花人情紙風船団
公演は11月 
『蝶子〜風説・夫婦善哉〜(仮題)』
と予告があった。
また、“紅さん” と 
“洋さん” の対決
そして新しい “洋あおいさん”
に出会えるのが楽しみです。









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