浪花人情紙風船団
  第8回公演

蝶 子 
(原作 織田作之助「夫婦善哉」より)

2008年11月21日(木)〜24日(日)
   ワッハホール







今回で6度目の出演になる浪花人情
紙風船団の出し物は織田作之助の
“夫婦善哉”から「蝶子」。
大正から昭和初期の大阪ミナミを舞台
に“蝶子と柳吉”に蝶子の家族や
近所の人々、様々な浪花の人情が
重なり時代色豊かに描かれていた。

洋さん役はかつて蝶子と一緒に働いて
いた新地の元芸者“金八”。
老舗旅館の若女将“貴代”
(第6回ええお湯だっせ)の役とは
また違い、一段と艶やかで粋な
雰囲気はさすが元芸者のおもむき
だった。




駆け落ちした新地の芸者“蝶子”
(紅萬子さん)と女房も子供もいる
化粧品問屋の若旦那柳吉 
(曾我廼家八十吉さん)は
折箱屋の二階に新所帯を持つ。
蝶子は勘当された柳吉を一人前の
男とし出世させようと必死に働き
お金を貯めるが、柳吉はその貯金
を遊興にあっという間に散財して
しまう。なんとか開店した関東煮
の店は評判が上々であったが、
あきっぽい柳吉はじきに酒を飲む
ばかりで倒れて入院してしまう始末。
店を閉じ、看病や病院の費用の
ため必死の思いで金策に走る蝶子に
母親辰(千草英子さん)の危篤の
連絡が・・・。
その後、ばったり会った金八
(洋あおい)の援助でサロン「蝶柳」
を、開店することになり蝶子の
才覚もあり店も繁盛しはじめる。
柳吉の父親の危篤知らせに、蝶子
は夫婦として認めてもらいたい
一心で柳吉に思いを託すが解かっ
てもらえず衝動的にガス自殺未遂
を起こしてしまう。

「親が大事か、わいが大事か!」
柳吉の怒声に危篤の母の元に
駆けつけることもできず、悲しみ
をぶるける場所を失って子供の
ように声を上げて泣く蝶子に胸が
衝かれた。
バックに流れるショパンのピアノ
の曲にいっそう哀しさが伝わって
くる。
柳吉は、父親に勘当されるものの、
じきに勘当が解けてお金が自由に
なると見通しも認識も甘く、仕事も
せずに蝶子を頼るばかりで甲斐性
がない。
何か始めても直にあきて中々腰が
据わらない。
身代が妹婿に移り、たよりの父親
を亡くしてようやく蝶子を向かい
合えたように思った。

毛皮のショールをまとい高価な
貴金属を付けた金八は、今では
鉱山師の妻になり申し分のない
出世ぶりである。
蝶子に「いくらでも助けたい。
私には係累もないし・・・。」
と援助を約束する金八に一抹の
寂しさを感じる。
人は誰かのために一生懸命になり、
頼られるからこそ文句を言い
ながらも頑張れるものなのか。

蝶子の父親“種吉”(楠年明さん)
は気が善く、母親“辰”はしっかり
者で一銭天麩羅屋を営むが何時も
借金取りに追われ貧乏である。
それでも辰は、亡くなった時に
まとまった貯金を残し、父は
蝶子の弟信一を三高にまで入れる。
貧乏ながらコツコツと働く
庶民の強さを感じる。
狂言回しのように蝶子と柳吉に
絡む折箱屋の夫婦(青野敏行さん・
未央一さん)。
辰の葬式に参列した気のいい
長屋の住人たちも同じである。
その長屋から原作にはない信一
(田村ツトムさん)が登場。
信一は織田作之助自身である。
河童長屋から三高に入り、文士に
なり知識階級の昇ったと言える
かもしれない。
信一はカフェーで働く和枝
(沙月梨乃さん)を連れ出し東京へ
向かい、やがて作家として有名に
なるが、胸を病み、薬を常用し
早世してしまう。
舞台の最後に大分で仲良く
暮らす蝶子と柳吉が白髪頭に
なって登場する。
相変わらずの“おもろい夫婦”
ぶりにその対比がなんとも
鮮烈で庶民のしたたかな強さ
を感じた。

多くの人が行き交う“夫婦善哉”
近くの通り、蝶子と柳吉を見つ
けた鮮やかな着物の金八が、
彼らの後姿に “おきばりやす”
とにこやかに優雅に見送る様子が、
蝶子と柳吉だけではなく、行き交う
人々や客席の私たちへの作者から
の贈り物のように感じた。





次回のペーパーバルーン公演は
5月28日(木)〜31日。

去年の「河内の國のため池の底」
と同じく“北林佐和子さん”の作で
ケッサク音楽ファンタジー
 「CABALET キャバレー」
〜極楽行きキャバレーへようこそ〜 

とあった。

人間界と地獄界?
なにやら、楽しそうな趣向と
キャバレーの本格的なショーが
観られそうである。
















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