七つの顔をもつ龍馬

   
作・演出 北林佐和子

2011年3月11日(金)〜13日(日)
      全5回公演
   大丸心斎橋劇場








“誰もが愛し 
 誰もが憎んだ 
 私の龍馬”  
フライヤーのこの言葉は
作品そのもの、
しかも龍馬暗殺の真相を暗示する
ものでもありました。 
稚気に富んだ明るさ情熱に加え、
哀しみさえも背負った龍馬は、
まさに洋さんの当たり役でした。

薄暗い舞台に仮面をつけた人々の
龍馬を呪うような歌、
そんな不気味な人々の間から登場
した龍馬は屈託のない笑顔に
真っ赤な紋付袴。  
この真っ赤な衣装は衝撃でした。
瞬間、日が射してきたように
舞台が華やぎ、龍馬の明るい
人柄を感じましたが、同時に
悲惨な最後をも連想させ
ドキリとしました。
「遅いのう・・・お龍」 
と待ちながら歌うテーマ曲 
(リピート山中さん) 
の歌詞が温かく切なく、
なんとも優しい。
一転、刺客が現れいくつもの
白刃が龍馬の首にかかる。
絶対絶命のその瞬間、龍馬は
彼方に何かを見た・・・。
容赦のない幕末の世の厳しさ
をひりひりと感じる暗示的な
プロローグでした。

物語は龍馬の七回忌の案内状を
手に集う、新政府と袂を分かつ
西郷さん(大橋壮太さん)、
病床の身である木戸さん
(南条好輝さん)、 
寺田屋のお登勢さん(未央一さん)、
龍馬フリークの記者坂崎さん
(小久保びんさん)、 
遅れて龍馬の姉乙女さん
(万田あけ美さん) 
も加わり回想しながら龍馬暗殺
の容疑者に迫っていくもの
でした。
容疑者は、盟友とはいえ新政府
の人事で大きく、対立する
中岡慎太郎(友麻亜里さん)、
龍馬に武器商人の本質を
見抜かれたグラバー
(波輝一夢さん)、
龍馬を斬ることに固執する
幕末見回り組の今井信郎
(桜真之輔さん)、 
土佐藩の上士後藤象二郎
(中村信行さん)、 
お龍を愛してしまった
三吉慎蔵(有希晃さん)、
そして薩摩藩、長州藩、
お龍(青山雪菜さん)
さえも・・・

今井信郎と龍馬が白刃交える
“寺田屋” は、今までの
歌劇の舞台にはない迫真的な
殺陣、思わず見入って
しまいました。
今井信郎は先の見えない
幕末の世の暗いカゲそのもの
尊王も攘夷もなく非情なまで
の存在、ヒナタで輝くものを
ことごとく憎み、排除する。
龍馬をどこまでも追い詰め
深手を負わす場面は、
臨場感があり怖いほどでした。

清風亭の場面は緩急自在な
展開、緊張と緩和 (笑) 
実に痛快でした。
土佐藩の命運をかけた
後藤象二郎の策略を尻目に、
丸山一の芸妓お元(陽月れなさん)
といちゃつく龍馬、
なにやら妙に楽しげな2人に
笑えます。 
龍馬と後藤の緊迫した応酬に
いちいち反応していきり立つ
後藤の部下たち、反して龍馬
の秘書役 
陸奥陽之助(大澤真也さん)は
役目一筋の能天気ぶり。
扇子をマイクに 
♪ おいらは龍馬〜♪
と始まる 「嵐を呼ぶ男」の
替え歌で迫る後藤への説得は
なんともカッコよく、ようやく
合意に達した清風亭はなんと
賑やかカラオケルームに様変わり。
意気投合し仲良く合唱して盛り
上がっている所へ乱入してきた
のは、嫉妬に狂ったお龍!?
一同緊張し固まったところ、
爆笑ずっこける 
“おち” がついておりました。

「日本を今一度洗濯いたし
申し候」と大口をたたきながら、
女房の心のシミ一つとることが
できなかったと述懐す龍馬の
言葉に泣かされました。
寺田屋事件の恐怖と後の龍馬
との至福の時間は、トラウマ
となって思いを募らせ、
お龍の心を病んでいく。
龍馬に斬りかかるお龍を抱きとめ、
歌われデュエットはひたすら
哀しく美しく 
「闇の貴公子」の名場面 
“鬼の道行” を思い出します。
龍馬に執着するお龍を哀れに
思う三吉の企てははずれ、
潜んでいた近江屋で確信犯
今井信郎に踏み込まれ暗殺
される龍馬、遅れて行った
お龍の嘆きは大きく、
プロローグの
「遅いのう・・・お龍」に
重なり妙に納得しました。

“多くの人に愛され大仕事を
成し遂げることができたが、
同時に沢山の人に憎まれた
”としみじみ語る独白に
様々な “顔” 
を持った龍馬が一つになり
真実が見えてきました。
洋さんの龍馬は自然体で
確かな存在感を持って心に
降りてきました。


レビューがありました!
日舞 
♪ “龍馬伝” のテーマ曲
洋さん以外の男役が桜の枝を
手に若衆姿で舞台袖と客席
から登場。 
ドラマティックな音楽と秘めた
思いを感じる振りは心地よく、
いつまでも見ていたい思い
でした。
♪ 敏捷な小動物の化身を
思わせる、着物姿の女役の桜さん、
黒の着物に長い上衣を羽織った
男役の洋さん、ロック風の
音楽に戯れるように、
競うように、支配するように、
高速の振りがビシッ、ビシッと
決まり、それを楽しんでいる
ような二人にもうクギづけ
でした。 
再びの競演観たいものです。

洋舞 
♪ 男役たちとの魅力的な女
青山さんをめぐる恋の駆け引き
を思わす歌劇らしいダンス。
♪ 出色はOSKOGのタンゴ、
黒の衣装、洋さんの切れの
よい振り、かもし出される
オーラはカッコイイの一言。
ずらっと並んだOSKOGの
競い合うようなタンゴは
見ごたえあり、
“これぞOSK男役” 
の場面でした。
♪ 淡いパープルの衣装で
未央さんの歌から白いドレス
の青山さん、同じく白の衣装
の洋さんの
♪デュエットダンス。 
ようやく幸せな出会いをした
お二人にホッとしました。

男優と歌劇男役の共演は夫々
活躍されている得意分野が
生かされ、説得力のある面白い
舞台が実現されました。 
今後も歌劇の面白さを持った
舞台を期待します。









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